【考察】安倍政権は何故著作権法改正案の提出を見送ったか
まず、結論から言うと、
表現規制すると、ネットでの世論を操ることができなくなるから
ではないかと考えます。
もし「安倍政権が海賊版対策を口実に表現規制しようとしている」というのなら、
ブロッキング導入もどんなに有識者会議で反対意見があっても、強権的な手段を使ってゴリ押ししたはずです。
つまり、安倍政権にブロッキングを導入する気はない可能性が極めて高いのではないか。ということです。
この産経新聞の記事には、古屋圭司氏が安倍総理に電話で直談判した時のやり取りが、以下のように記されています。
古屋氏「DL規制拡大は投網で小魚も一網打尽にする危険性があります」
首相「漫画家を保護するための法律のはずなのに、別の意図を持った法律になっているじゃないか」
首相は即座にDL規制拡大の項目削除を指示した。このまま総務会の了承を得て改正案を閣議決定すれば「首相はネットでの言論弾圧を狙っている」との批判を浴びかねない。そう考えたからだ。
「「首相はネットでの言論弾圧を狙っている」との批判を浴びかねない。」
要するに、言い換えると
「安倍政権が表現規制をするようなことがあってはならない」
「規制推進派は常に左翼でなければならない」
ということではないでしょうか。
そして、「別の意図を持った法律になってるじゃないか」というのは、
「安倍政権を潰す意図を持って作られた法案」
という意味なのではないでしょうか。
そうでなければ、あんなヒステリックな反応にはなり得ないでしょう。
文化庁は文部科学省の外局。そして、文部科学省といえば、「面従腹背」で知られる、前川喜平元事務次官がいた省である。
猜疑心の強い安倍総理は、前川氏の関与を疑ったのかもしれませんが、前川氏にはそんなことができるような能などあるわけがないでしょう。
何しろ、天下り問題で辞任せざるを得なくなってから、最後っ屁のように政権批判を始めたのですから。
もし前川氏が有能であれば、参院選直前のタイミングで森友学園や加計学園などの問題についてリークされていたはずです。
「安倍総理の指示」という点については、産経が報道した当日、菅官房長官が会見で否定しましたが、
産経新聞だけでなく、毎日新聞までもが「安倍総理の指示」を報道していました。
この項目は改正案の柱だが、利益が守られる側の漫画家団体のほか、一般のネット利用者から「インターネット利用を萎縮させる」などと懸念する声が上がっており、安倍晋三首相が指示したという。
今回の著作権法改正案提出見送りの背景について書かれた各メディアの記事には、
「ネット世論」、「ネットの支持層」などの文字が踊ります。選挙を直前に控えたタイミングということもありますが、安倍政権が本気で規制したいのであれば、支持率が下がるリスクを冒そうとも強引に通すはず。
しかし、それをしなかったということは、
「表現規制問題は、安倍政権のネット世論操作の生命線」
「安倍政権がひとたび表現規制をすれば、ネット上での支持をたちまち失いかねないと考えている」
ということなのではないかと思ったのです。
かつては、規制反対派の主張に対して一顧だにしなかった自民党が、
どうして規制反対派の意見を聞くようになったのだろうか。
それは、政権交代と大きな関わりがあるのではないでしょうか。
民主党に政権を奪われて以来、ネットユーザーの取り込みを図ってきた。
何を材料に取り込んで、ネット世論を味方に付ければいいのか研究してきた。
その過程で、表現規制問題に目を付けたのでしょう。
自民党が政権を奪還する以前は、非自民勢力側しか反対意見に耳を傾けてくれなかったため、規制反対派は必然的に反自民志向になっていましたが、今は違います。
今や、かつて「安倍晋三と日本会議こそ規制推進派の親玉」と主張してきた人ですら、自民党について好意的な反応をしているのです。何故かというと、自民党が耳を傾けてくれるようになったからです。それは、ネット世論を味方に付ける方法を研究してきたからではないでしょうか。
東京都青少年健全育成条例改正問題の当時、自民党側に接触しても相手にされなかったので、早くともそれ以降のことではないでしょう。
事実、安倍政権は今まで(漫画やアニメ等の)表現を規制する立法を、次々と握り潰してきました。*1
中でも決定的なのが、「有害図書規制を条件とした出版物に対する軽減税率の導入」について。
「安倍政権が表現規制をしたがっている」というのなら、「軽減税率導入と引き換えの有害図書規制導入」は千載一遇のチャンスである。絶対に逃すわけにはいかない。
この出版業界の対応は倒錯しているとしか思えないが、安倍政権はその条件を握りつぶした。安倍政権が表現規制推進派だとしたら、絶対にあり得ない倒錯した対応である。
そして、とどめはこれ。
山田太郎氏は、2010年の参院選でみんなの党から出馬しましたが、落選。
当時、規制推進派の市民団体として有名だった、ECPATの顧問弁護士、後藤啓二氏が出馬していたため、ろくに注目されることはなく、わずか3万票程度しか取れずに落選。
しかし、2012年の衆院選で、みんなの党から維新に移籍した参議院議員3人が鞍替えしたため、繰り上げ当選。繰り上げ当選後、たちまち表現規制反対派の論客として、たちまち有名になりました。
みんなの党解党後は、日本を元気にする会を結党したものの、政党要件を喪失して選挙に出る当てが無くなり離党、おおさか維新の会(当時)に入ったものの、埼玉県選挙区での公認をめぐる対立*2からわずか2日で離党。
無所属になったため、出馬そのものが危ぶまれましたが、2016年の参院選は新党改革から出馬。約29万票という大量の個人票を集めたものの、出馬した新党改革が議席を獲得できなかったため、落選しました。
安保関連法に賛成したこともあり、山田氏は、前回の参院選の頃から「オタク=ネトウヨ」の象徴扱いされてきましたし、私自身も本人のTwitterを見てみたら「ネトウヨ臭いという印象を持つのも無理はない」と思っていました。
そして、今回の自民党公認決定。
私は維新離党の経緯を考えるに、些細なことで離党されるリスクを考えると、自民党が公認するとは考えにくいと思っていました。
つまり、自民党にとって、山田氏に離党されるリスクはない。
これで、安倍政権は自ら手を汚してまで表現規制をするつもりはないんだと、改めて思いました。
ダウンロード違法化について「削除」することで対処しようとしていたのが、
最終的に法案そのものの提出を先送りすることになったのは、
で指摘されているように、リーチサイト規制の条文にも問題点があることが明らかになったためでしょう。
私は、
「リーチサイト規制だけだったら、共産党も反対せず、全会一致ですんなり通っていたはずなのに」
と思っていましたが、それはとんでもない思い違いだったようです。
そして、野党側の反応を見ても、安倍政権の思惑通りに物事が進んでいるように思われます。
「参院選対策見え見え」 著作権法改正案見送りで 立民 辻元氏 | NHKニュース
これについて、立憲民主党の辻元国会対策委員長は党の代議士会で、「参議院選挙対策という下心が見え見えで、『インターネットの利用者から批判が多いため、選挙での離反を恐れて、取り下げた』という動機は不純だ」と批判しました。そのうえで、「『なぜ、取り下げられたのか』という点をただしていかないといけない」と述べ、国会で追及する考えを示しました。
確かに、選挙対策が「見え見えで、動機が不純だというのはその通りですが、この反応は、悪手中の悪手としかいいようがありません。
野党は「与党のあまのじゃく」であってはならないのです。
これでは「野党=規制推進派」だと思われるのがオチではないでしょうか!?
野党には「何でも反対」というイメージが常に付きまといます。*3
それが支持拡大の妨げになっているとして、政治家の間ではそのイメージは嫌悪されています。
しかし、その一方で熱心な野党支持層からは、むしろ「何でも反対」であることを望まれるというねじれ現象があるのです。だから、マズイと思いつつも、「何でも反対」を止めることができないのでしょう。
「ネット上の支持層に迎合する」という点では、与党も野党も同じなのです。
もし法案が提出されて、国会の審議の場に持ち込まれれば、
与党の政治家は辻元清美氏にコテンパンにやり込められていたはず。
だからこそ、「何でも反対」を逆手に取って、
辻元氏にやられる前に、まんまと罠にはめたというわけです。
野党側には、法案提出を断念した経緯を追及することよりも、むしろ、今回のような表現規制する法案に断固反対することを、公約に明記してほしいものです。
「どうせ、再提出するんだろ!?」と言われるけれども、
「表現規制につながりかねない」と見なされるような条項は、
まるまる削除されることになると予想します。